
監督:スティーヴ・ジェームズ
(『フープ・ドリームス』『スティーヴィー』)
原題:A Compassionate
Spy 登場人物:テッド(セオドア)・ホール、ジョーン・ホール
2022年/イギリス、アメリカ/
英語 / カラー、モノクロ/ドキュメンタリー/101 分 © Participant
Film
日本版字幕:若林 信乃 字幕監修:新田 宗土(慶應義塾大学 /
広島大学 SKCM2)
提供:メニーウェル 配給:パンドラ
戦後80年の今、緊急ロードショー!
8月2日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開
8月1日(金)より広島八丁座にて先行公開
解説

原爆開発の隠された真実
マンハッタン計画とスパイ
広島と長崎に原爆が投下された1945年から今年で80年。第二次世界大戦下、「マンハッタン計画」において、〈原爆の父〉オッペンハイマー博士の下、原子爆弾の研究・開発に最年少の18歳で参加した天才物理学者テッド・ホール。彼は開発に関わる国家機密をソ連へと密かに流していた─。米ソ間で競うように開発され、広島・長崎へと投下された原子爆弾。そして戦後激化していく軍拡競争と冷戦構造…。一人の物理学者の大胆な行動が世界をどう変えたのか?「原爆スパイ」の驚くべき人生と、核開発をめぐる大国の思惑を克明に描く衝撃のドキュメンタリー。
18歳のスパイが懸念したこと
─彼は「裁かれるべき」だったのか?
当時計画に携わった物理学者の多くが、米国による原爆の独占を危険視し、ソ連と情報を共有すべきだと考えていた。共産主義に傾倒しソ連へ機密を流し続けたテッド。核戦力の均衡をもたらした一方で、ソ連に禁断の兵器を握らせたとも言える彼の行動は、「正しかった」のか? 1997年、その驚くべき人生が知れ渡ると同時に米国で一大論争を巻き起こしたテッド・ホール。同じ容疑で死刑判決が下ったジュリアス・ローゼンバーグ夫妻との違いを生んだのは何だったのか?後年、動機を「思いやり」だったと語るテッドが、現代にある“警鐘”を投げかける──。
驚くべき“ある家族の物語”をひも解く
スティーヴ・ジェームズ監督最新作
後年までFBIに追われ続けたテッド。妻と娘たちは“スパイの父”とどのように秘密を共有し、共に生きてきたのだろうか?米国で“タブー”とさえ言える「原爆投下」に疑義を突き付けるテッドを一人の人間として描き出したのは、『フープ・ドリームス』(1994年/アカデミー賞編集賞ノミネート、サンダンス映画祭観客賞)、『プリフォンテーン』(1997年)『スティーヴィー』(2002年)等で知られ、二度のアカデミー賞ノミネート、多数の受賞歴を誇る米国で最も重要なドキュメンタリー作家のひとり、スティーヴ・ジェームズである。
作品概要
カメラに向かって語り出す穏やかな老夫婦。
彼らが語り始めたのは、52年にわたり家族が守り続けた、驚くべき
ある秘密だった──。
最年少の18歳で“原爆の父”オッペンハイマーの下、マンハッタン計画に参加した天才科学者、テッド・ホール。原子爆弾の威力を知るにつれ、「アメリカの原爆独占は危険だ」と考えるようになったホールは、盟友と共にソ連へ機密情報を密かに提供することを決意する。
米ソ間で競うように開発され、広島・長崎へと投下された原子爆弾。戦後冷戦構造、その後激化していく軍拡競争…彼の行為は“正義”か、それとも“裏切り”か?ソ連に機密を渡し続けたテッド・ホールの行動の裏には、核の脅威を憂う彼自身の信念があった。
その一方、FBIの監視に怯え、いつ逮捕されるかわからない日々を生き抜く中で、秘密を共有し支えたのは家族の存在だった。妻ジョーン、そして子どもたちは“スパイの父”をどう受け止め、共に生きたのか。父として、科学者として、テッドが次世代に遺そうとしたメッセージとは――。
登場人物

セオドア“テッド”ホール Theodore “Ted” Hall
(1925年10月20日~1999年11月1日)
アメリカの物理学者。ニューヨークの裕福なユダヤ人家庭に育った。10代の頃、数学と科学に比類ない才能を発揮した。1937年、才能ある少年たち向けのタウンゼント・ハリス高校に通い、14歳でクイーンズ・カレッジに入学。1942年にハーバード大学に編入し、18歳で物理学の学位を取得し卒業。
ロスアラモスのマンハッタン計画に採用された最年少の科学者であり、爆縮型爆弾「ファットマン」の実験を担当し、「リトルボーイ」として知られる銃型爆弾に必要なウランの臨界量の決定に貢献した。
1944年10月、休暇でニューヨークに滞在していたホールは、マンハッタン計画に関する情報をソ連に伝えるつてを作るため、ニューヨークにあるアメリカ共産党の事務所を訪れた。ソ連紙の軍事ライターであるセルゲイ・クルナコフと出会い、ロスアラモスで働く科学者と爆縮爆弾の基礎科学に関する報告書を渡した。報告書は最終的にニューヨークのソ連領事館に届き、ニューヨーク支局長のアナトリー・ヤツコフがワンタイムパッド暗号を使ってモスクワのNKVDに情報を送信した。ホールは正式にソ連の情報提供者となり、MLAD(「ヤング=若い」)というコードネームが付与された。
第二次世界大戦後、シカゴ大学に入学したホールは、同大学で開発中の新型核兵器(水爆)に関する情報をソ連に伝え続けた。ホールはやがてイギリスに移り、ケンブリッジ大学で研究を始め、生体組織の薄切片を調べる新しい方法を開発した。
ホールがスパイ行為で有罪判決を受けることはなかった。1951年にFBIから短期間取り調べを受けたが、起訴されることはなかった。1997年、アメリカの核兵器独占は危険であり、原子情報は国家間で共有されるべきであると強く感じていたことを認めた。
1925年10月20日 | ニューヨーク市ファー・ロッカウェイで生まれる |
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1944年 | ハーバード大学から物理学の学位を受ける |
1943年~1946年 |
ロスアラモスのマンハッタン計画に参加 プルトニウム爆弾「ファットマン」に関する情報をソ連に渡す |
1999年11月1日 | イギリス・ケンブリッジで死去 |

ジョーン・ホール Joan Hall
(1929年4月25日〜2023年6月14日)
テッドの妻。シカゴ生。
1944年、15歳で飛び級しシカゴ大学に入学。テッド・ホールと出会う。
出典: The Guardian

エドワード・ナサニエル・ホール Edward Nathaniel Hall
(1914年8月4日~2006年1月15日)
テッドの兄。ニューヨーク生まれ。1935年にニューヨーク市立大学で工学の理学士号を、1936年に化学工学の専門職学位を取得。1948年、カリフォルニア工科大学で航空工学の理学修士号を取得。1939年9月26日に米陸軍航空隊に入隊。第二次世界大戦および20世紀後半にアメリカ合衆国とその同盟国で活躍したミサイル開発技術者。大陸間弾道ミサイル(ICBM)“ミニットマン”の生みの親として知られる。その他、NATOのための核弾頭搭載型中距離弾道ミサイル(IRBM)の設計、開発、製造、配備を指揮。1959年10月27日空軍を退役。ユナイテッド・エアクラフト・コーポレーションに入社し、14年間にわたり、宇宙開発に携わる。

ジョセフ・オルブライト Joseph Albright
マーシャ・カンステル Marcia Kunstel
テッドのスパイ活動を綴った書籍“Bombshell: the Secret of America's Unknown Atomic Spy Conspiracy”(Times Books刊/1997年9月16日発売)の著者。

スタッフ

監督 スティーヴ・ジェームズ Steve James
- フィルモグラフィー(日本公開またはTV放送作)
- 『行き止まりの世界に生まれて』(2018年)制作総指揮
- 『スティーヴィー』(2002年)監督・製作・編集
- 『ファイター』(2002年)TV 監督
- 『栄光へのダンクシュート』(1999年)TV 監督
- 『プリフォンテーン』(1997年)監督・脚本
- 『フープ・ドリームス』(1994年)監督・製作・脚本
アメリカ合衆国バージニア州ハンプトン生まれ。二度のアカデミー賞ノミネート、多数の受賞歴を持つ米国で重要なドキュメンタリー作家のひとり。
10代のバスケットボール選手ウィリアム・ゲイツとアーサー・エイジーの5年間を記録した『フープ・ドリームス』(1994年)でスポーツにかける若者の夢とスラムの現実の微妙な関係を捉え、アカデミー賞編集賞ノミネート、サンダンス映画祭観客賞を皮切りにLA映画批評家協会賞、NY映画批評家協会賞をはじめとして主要な批評家賞をすべて受賞。全米監督組合賞、MTVムービー・アワードの最優秀新人監督賞、ピーボディ賞、ロバート・F・ケネディ・ジャーナリズム賞を受賞するなど作品として非常に高い評価を得たほか、歴代ドキュメンタリー映画の興行記録を塗り替える大ヒットを記録し、興行的にも大成功を収める。2005年には連邦政府国立フィルム保存委員会により同作がアメリカ国立フィルム登録簿(National Film Registry)に登録され、アメリカ映画史における重要な作品と位置付けられた。
世界で初めてナイキシューズを履いた伝説の長距離ランナー、スティーブ・プリフォンテーンを描いた『プリフォンテーン』(1997年)、非行を繰り返す少年と家族の関係を監督自身の視点で捉えた映画『スティーヴィー』(2002年)、アメリカを代表する映画批評家ロジャー・エバートを題材にした“ Life Itself”(シカゴ映画批評家協会賞、シアトル映画批評家協会賞他多数受賞)を手掛けるなどドキュメンタリー作家として活躍。2008年の米住宅ローン危機を受け刑事告発された金融機関Abacusを追ったドキュメンタリー“Abacus: Small Enough to Jail”(2016年)でアカデミー賞長編記録映画賞ノミネート。プロデューサーとしても数多くの作品を手掛けるほか、TVドキュメンタリー監督作も多数。現在、『「闇」へ』(2007年)でアカデミー長編記録映画賞受賞のアレックス・ギブニーをプロデューサーに迎え、AIテクノロジーをテーマとした最新作“Mind vs Machine”の制作にあたるなど旺盛な活動を見せている。
海外評 & コメント
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個人と政治が鮮やかに交差する、
語られざる歴史。★★★★★The Guardian
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ある家族が抱えた秘密。
それは世界を救った、かもしれない。Screen Daily
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彼がいなかったら、米ソの冷戦はまったく違うものになっていたかも。完全なる正義など存在せず、時代によって振り子のように変わる。彼の行動は善だったのか、悪だったのか……深く考えさせられた。
佐々木俊尚(文筆家)
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これは複雑な気持ちにさせる必見の話です。意見が激しく分かれると思いますが、テッド・ホールがやったことについて世界中の人が知った上で、とことん議論をしないことには核兵器の問題は解決できないでしょう。
ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
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僕はいま53歳だ。19歳のとき世界を破滅させる兵器に関わり、そして自分の国を信頼できないと思えばどうしただろう。もしあなたなら、どんな言葉で振り返りますか。
速水螺旋人(漫画家)
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アメリカだけが核を持つことを怖れた18歳の学者。ソ連にその技術を伝えた。それから80年、核が世界に広がった今、「一瞬にして地球を崩壊させる危機に差し掛かっている」と警告する彼の言葉。ぜひ多くの人に知ってほしいです。
加藤登紀子(歌手)
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核開発と冷戦に翻弄されたテッド・ホールとその家族の物語は、あたかも人類のメタファーのようだ。
原子力を完全に制御する力をひとは持たない。しかし、おのれの人生を制御する力もまた持たないのが人間である。
戦後80年、殺戮の愚かさを忘れたかのような世界に大きな示唆を与えてくれる作品。上田洋子(ロシア文学者/ゲンロン代表)
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タイトルから冷酷無情な人を思い浮かべるでしょう? ところが彼とその妻も、心優しくて、戦争を無くしたい、その一心で! 核の抑止力を信じている人、逆にそれを否定する人、みんなに観て貰いたい。世界中の人が観れば核を無くせるはず。
松元ヒロ(コメディアン)
上映情報
地域 | 劇場名 | 公開日 | 備考 |
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北海道 | シアターキノ | 2025/8/9(土)〜8/12(火) | |
栃木県 | 小山シネマロブレ | 2025/8/8(金)〜8/14(木) | |
栃木県 | 宇都宮ヒカリ座 | 2025/12/12(金)〜12/18(木) | |
群馬県 | 前橋シネマハウス | 2025/9/20(土)〜10/3(金) | |
埼玉県 | OttO | 2025/10/3(金)〜10/7(火) | |
東京都 | ユーロスペース | 2025/8/2(土)〜 |
8月22日以前は劇場公式サイト他にてご案内しております。 |
神奈川県 | 横浜シネマリン | 2025/11/15(土)〜11/28(金) | |
長野県 | 上田映劇 | 2025/8/15(金)〜 | |
愛知県 | ナゴヤキネマ・ノイ | 2025/8/9(土)〜 | |
京都府 | アップリンク京都 | 2025/8/22(金)〜8/28(木) |
8/22(金)・8/23(土)14:25 |
大阪府 | 第七藝術劇場 | 2025/9/6(土)〜9/12(金) | |
兵庫県 | 元町映画館 | 【近日公開】 | |
岡山県 | シネマ・クレール | 2025/9/5(金)〜9/11(木) | |
広島県 | 八丁座 | 2025/8/1(金)〜8/14(木) |
8月1日(金)~7日(木) 14:10~ |
宮崎県 | 宮崎キネマ館 | 2025/8/22(金)〜8/28(木) | |
沖縄県 | 桜坂劇場 | 2025/8/30(土)〜 |